エピジェネティクスと世代間トラウマ 

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「トラウマは引き継がれるのか?」という疑問から始まった

 毎月、FEIの会(MBSR講師を中心とする学習会)で、Mind&Life Podcastから取り上げられるテーマがとても興味深いので、今回もみなさんにもお届けしようと思います。今回は神経科学者・トラウマ研究家のブライアン・ディアス博士の「エピジェネティクスと世代間トラウマ」についてです。

 「エピジェネティクス」の概念は、生物学的定義や分子生物学の立場などにより若干異なりますが、ここでは、「心の状態や環境のケアを通じて、身体や遺伝子レベルの健やかさを整える(遺伝子発現を最適化する)」という現代の統合医療や行動医学の視点に基づいて捉えています。

 彼はインドでカトリックとして育ち、その後、チベットのエモリー・チベット・サイエンス・イニシアティブで神経科学を教える傍ら、僧侶から瞑想やマインドフルネス、敬意ある建設的な対話の仕方を学んだそうです。

 どんな人の人生にも、必ず様々なトラウマやストレス(生老病死を含む)はあります。

 彼は、最初の聞き手のウェンディさんとの会話で、ご自身が子どものころに虐待を受けていたこと、そのため研究の動機として、「自分自身のストレスやトラウマの遺産をどうすれば自分の子どもたちに受け継がせずに済むのかが、研究の大きな動機であった。」と語っています。

 また、「ストレスやトラウマの苦しみは、単なる頭の中の思い込みではなく、生物学的にもそのストレスやトラウマは刻み込まれていること」、同時に「ストレスやトラウマの遺産は弱めることが出来るし、止めることが出来るし、和らげることもできるという希望や癒しの視点も届けたい。」と話しを始められました。

マウスの実験

 彼によると、「歴史を通じて、祖先世代の環境が子孫世代に影響することはわかっていた。けれども人間でそれらを調べるのは、困難だったため、倫理条件をクリアして、マウスに特定に匂いを恐れさせるという実験を行ったそうです。

 結果は、将来の世代では、その雄の父親が恐怖条件づけられたその匂いに対して、より敏感になることが分かったそうです。

 この研究は、メディアで「マウスが父親の恐怖を受け継いだ」と表現されましたが、実際には、そう単純ではなく、受け継がれたのは、「行動的感受性」であり、次世代は、その匂いに対してより注意深くなり、環境の中でその匂いをより適切に検知できるようになるとのことです。

 つまり、次世代は恐怖を受け継ぐのではなく、一般的な理解として、未来世代が自分の環境を最適に生き抜けるように情報を伝えているとされています。ただしそれには未来世代が生きる環境が、祖先世代と同じ環境であることが前提条件となっています。

希望の光(silver linings)

 その実験では、その後、雄マウスに人間でいう認知行動療法に相当する消去訓練(extinction training)を行えば、恐怖条件付けされた雄マウスの精子への影響は消えていくことが分かりました。

 安全な環境でその匂いに繰り返しさらすことで、新しい記憶や新しい連合を形成する(再学習)ことができ、また、そうすることによって、伝達されていた分子的変化も消えるということが動物モデルで確認されたことです。つまり、脳内に新しい回路を作ることでもあります。

 「安全な環境でその匂いに繰り返しさらすこと」

 これは、私たちがマインドフルネスを学び、プラクティスする際に、必ず、自分の体験に対しての3つの輪(ゾーン)として「安全な(快適な、コンフォタブルゾーン)で、まず不快なことと出会っていくことと似ています。

 そして、出来ると感じたら成長の領域(ユーストレス)の領域に入り、少しずつ不快なことにも向き合う練習すること」と重なり合います。
 その中で自分にとって不快なことに出会えば(曝されれば)、3つの対応を取りながら、選択と集中をしていく過程とある意味同じです。

 繰り返していけば、不快のことそのものとの関係性が変化し、よりよい選択肢が取れる可能性もあります。

 私たちは単に遺伝子に支配された存在(遺伝子決定論)ではなく、マインドフルネスを通じて「どのようにストレスに反応するか」から「どのように対応するか」と注意を向けることで、もしかしたら、細胞レベルの環境をも変えていくことができる可能性があります。

 また、生まれ持ったDNA(遺伝子の配列)そのものは変えられなくても、マインドフルネスの実践(瞑想、マインドフルヨーガ、様々なプラクティスなど)によって「どの遺伝子がどう働くか(発現するか)」というスイッチの切り替えは、自分たちの手で働きかけられる可能性もあります。

 “Silver linings”(シルバー・ライニングス)は、英語の有名なことわざ「Every cloud has a silver lining(どんな暗雲も、裏側は銀色に輝いている)」から来ている言葉です。

 黒く分厚い雲(=困難、悲しみ、トラウマなど)があっても、その隙間や縁(ライニング)からは太陽の光が漏れて輝いて見えます。そこから転じて、「どんなに辛い状況や暗い出来事の中にも、必ず存在する希望の兆し、救い、プラスの側面も見出すことが出来る」という意味だそうです。

 ブライアン博士がこの言葉を最後に語っていることは、

  「運命は決して固定されていない」

  「変わる力は自分の中にある」という力強いメッセージでした。

 最後までお読みくださったみなさん、今日もどうもありがとうございました。

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