がんばりすぎない
今日、私は久しぶりにジムに行きました。いつものようにマシーンを始める前にフリースペースに行き、ストレッチをしようと場所を探していると、お見受けするところ、70代~80代の5~6人の超ベテラン(元体育会系の感じが…)の方々のグループが楽しそうにストレッチをしておられました。「ただ者たちではないなこの方々は…。」と醸し出されている雰囲気が物語っています。フリースペースの端の方でヨガマットを敷いている私に、聞くともなしにその方々の語らいが聞こえてきました。
私の近くにおられた一人の方が突然、「さあ、いくで!」と言って、180度開脚をされました。ほんとうに見事に一直線に足が開いていました。私はわが目を疑いました。「ワッー!ウソでしょ!(心の中の声)」その方は、男性で70代後半でしょうか、若い時は体操部でご活躍だったのでしょうか…。するとその方が、「前もいくで。」とまたも事も無げに上半身をベタッーと床に付けられました。私はその見事なお姿に言葉も出ず、目が釘付けになっていました。
すると、別の方が「すごいな、見せつけんといてよ。(皆笑う)最近全然(柔軟体操?)してないから、わしもまた、せなあかんな。」「でも、がんばりすぎたらあかんで、また医者通いせなあかんからな。」「そや、何事も己の限界超えたらあかん。ひどいことなるからなあ。」「こないだもAさんが自転車から落ちて、なんか痛いなあと思って医者に診てもらったら足折れてたんやて。」「そんなん、よう自転車こいでたなあ。」(足折れてるのに自転車こげる老人ってどんな人!?)「そうや、なんか医者に行かなあかん思って、(予約)時間があるから必死やったらしいで。最近はどこでも予約、予約やからなあ。あんまり痛かったから内科やったけど診てもらったら足折れてたらしい。」「ちょうどよかったがな。診てもらえて。ほな、しばらくここも来られへんし、ゴルフも散歩もあかんなあ。」「急いだらあかんなあ。あとに響くわ…。もうここに来るの嫌になるんちやうか」「あいつはまた必ず来るがな。(一同笑)」と楽し気な会話は10分ほど続きました。
スーパー老人(すいません!)の方々のこの何気ない会話の中には、ご経験から紡ぎ出された深いお知恵が散りばめられていました。私は、「これらの会話は、マインドフルネス瞑想に取り組む時の極意も語っておられる…。すごい!やはり、一芸に秀でた方々の到達する境地は、洋の東西を問わず同じやわ…。」と心の中でつぶやく私でした。
瞑想は脳の筋トレ!?
「瞑想」はよく「脳の筋トレ」に例えられます。あまりに早く完璧でりっぱな筋肉をつけようとがんばりすぎたら、今の自分の筋肉に回復できないくらいのダメージを与えるだけではなく、身体全体にも様々な無理がかかります。無理な筋トレのために、もしかしたら仕事を休まなくてはならないかもしれません。すると自分だけではなく、人にも迷惑をかけてしまいます。すると、どうでしょうか?「やっぱり、自分って体力無いわ、ダメだ、無理。私には筋トレは向かない、やっぱりやめよう。筋トレより○○の方が向いてるかも…。等々」自分を責めたり、未来に開かれている可能性の扉を閉じてしまうことにもなりかねません。そういうこともあるのか、MBSR(マインドフルネスストレス低減法)では、第2週になってから静坐瞑想の準備をスモールステップで始めていきます。
最初は、まず、静坐瞑想の姿勢から探索していきます。最近の若い人たちは、畳での生活の経験のない方もおられて、床やマットの上であぐらをかく、あぐらで座るという経験のない方もおられます。 MBSRでは、瞑想を始める時は、床の上に座る方法、椅子に座る座り方、その方の状態やその日の体調に応じて立っていても、床に横になってもよいし、必要なら、坐布、枕、ブランケット、クッションなどの小道具も使ってもかまいません等の説明から入ります。
大切なのは、理想的な瞑想の姿勢(理想的な筋肉)を追求するのではなく、まずは、自分にとって目が覚めていて、気づきが起こりやすい、比較的楽な姿勢を見つけることから始めます。そして、ご自身が最も呼吸が生き生きと感じられる場所や体が床やイスと接している部分の感覚、手や足の裏の感覚、音など、自分の中で注意を向けやすいところを探索します。このような自分が安心して注意を向けることのできる場所を「アンカー」と言います。そして、姿勢の探索の後、初めてその姿勢で座る練習を1日10分から15分という短い時間から始めます。
スーパー老人たちの会話にもありましたように「無理をしてはいけない、がんばりすぎてはいけない、限界を超えてはいけない。」というのは、すべての「事始め」に通底する知恵であると思います。
また、行動療法を行ってきた私からの一言アドバイスですが、何か新しい行動を形成していくときは、まず、今自分がすでにできていることから、自信を持ってまず始めることが秘訣です。出来ていないことを目標に持っていくと出来ていないことの方に意識が向きすぎて、自分にプレッシャーをかけ、がんばりすぎて続かなくなるのが人間なのです。「がんばりすぎない」、これは大切な態度です!まず、今ここに座ろうとしている自分がいることに気づきを向け、労ったり、認めてあげましょう。
まずは、あわてないで、焦らないで、自分に合う姿勢を確認してみましょう。立ったり、座ったり、横になったりしてみて、5分ぐらいどんな感じがするか、自分の「アンカー」になりそうなところはどこだろう等、好奇心を持ってご自身を探索して、どんな思い・考え、感情、身体感覚が生じるか観察してみてくださいね。