マインドフルに観る
先日、テレビ番組で、「子ども博士ちゃん」という番組を見ました。14歳の葛飾北斎博士の少年が海外に渡った北斎の作品を訪ねて、超一流の北斎研究家や博物館、美術商の専門家と北斎の作品を前にして考え(考察)を交わすという番組があり、つい見入ってしまいました。
オランダの専門家から北斎の短歌の挿絵を見せられた時、彼がその作品を見て、「一瞬で目の前に、霧が月の前に漂っている情景が浮かんできます。小さな鳥が飛んでいるところは鳥の形を浮かび上がらせるために、紙をまず押して陰影をつけていますね。ちゃんと凸凹している…。」と語り、紙質も了解をもらい丁寧に確かめていました。
北斎の挿絵を前にして、何百年後かの日本の少年が、あたかも北斎と同じ時、同じ場所にいて同じ景色を見ているように感じました。
次にイギリスの渡り、サザビーズでオークションに出る前の「神奈川沖浪裏」の後期のめずらしい作品を見て、富士山に向かう海上の空気感の違いについて彼の考えを述べていました。
私は、彼の様子がとてもマインドフルに感じました。好奇心を持ち、観ようと意図し、対象を注意深く観察し、そこに立ち現れる思いや考え、感情、身体感覚をありのままに表現していたからです。
海外の専門家たちは彼の考察に驚き、とても好意的に受け止めていました。深い知識だけではなく、マインドフルに語った彼の思いや考えが、海外の専門家たちの心にも響いたのだと思います。
北斎の観察眼
北斎の観察眼のすごさは、「神奈川沖浪裏」の大波を拡大してみると、まるでハイスピードカメラでとらえたように波の端の繊細な形まで正確に捉えていると言われています。
また、「大波」の形が「ドラウプナー波」という現実に存在し、しばしば前兆なしに突然発生する危険な波に酷似していることなどが報告されています。
空想ではなく、北斎は、「大波」のその「一瞬」を観て、肌で感じ、匂いを嗅ぎ、音を聞いていた、確かにその場に自分の全存在を置いていた、そんなふうに感じました。
北斎もまたマインドフルに観ていたと…。
Hokusai Says
北斎の絵を見てインスピレーションを受けて詩を書いた人がいます。ロジャー・キーズさんという日本美術史家の方の詩で、アメリカのMBSR講師の仲間が研修中にシェアしてくれました。私はその時まで、このような詩があるとは知りませんでした。
マインドフルに見ることによって、自分の人生や自然と繋がりあうことのすばらしさを謳っていました。
Hokusai says Look carefully.
He says pay attention, notice.
He says keep looking, stay curious.
He says there is no end to seeing.
He says Look Forward to getting old.
He says keep changing, you just get more who you really are.
He says get stuck, accept it, repeat yourself as long as it’s interesting.
He says keep doing what you love.
He says keep praying.
He says every one of us is a child, every one of us is ancient, every one of us has a body.
He says every one of us is frightened.
He says every one of us has to find a way to live with fear.
He says everything is alive –shells, buildings, people, fish, mountains, trees.
Wood is alive.
Water is alive.
Everything has its own life.
Everything lives inside us.
He says live with the world inside you.
He says it doesn’t matter if you draw, or write books.
It doesn’t matter if you saw wood, or catch fish.
It doesn’t matter if you sit at home and stare at the ants on your veranda
or the shadows of the trees and grasses in your garden.
It matters that you care.
It matters that you feel.
It matters that you notice.
It matters that life lives through you.
Contentment is life living through you.
Joy is life living through you.
Satisfaction and strength is life living through you.
Peace is life living through you.
He says don’t be afraid.
Don’t be afraid.
Look, feel, let life take you by the hand.
Let life live through you.
北斎はよく見るように言う。
注意を払い、気づくように言う。
見続け、好奇心を持ち続けるように言う。
見ることには終わりがないと言う。
彼は、年を取ることを楽しみにしなさいと言います。
彼は、変わり続ければ、
本当の自分がもっとわかると言います。彼は、立ち止まって、それを受け入れ、興味深い限り同じこと
を繰り返しなさいと言います。
彼は、好きなことをやり続けなさいと言います。
彼は祈り続けるように言います。
彼は、私たち全員が子供であり、
私たち全員が老いていて、
私たち全員が肉体を持っていると言います。
彼は、私たち全員が怯えていると言います。
彼は、私たち全員が
恐怖とともに生きる方法を見つけなければならないと言います。
貝殻、建物、人、魚、
山、木、木材など、すべてが生きていると彼は言います。
水も生きているのです。
すべてのものは独自の命を持っています。
すべては私たちの中に生きています。
自分の中にある世界と共に生きなさいと彼は言います。
絵を描いたり、本を書いたりするのは問題ではない、と彼は言います。
木を切ったり、魚を捕まえたりするのは
問題ではない、家で
ベランダのアリや庭の
木や草の影をじっと見つめているのも問題ではない、あなたが気にかけているかどうかが重要なのです。
あなたが感じることが重要です。
気づくことが重要です。
人生があなたを通して生きることは重要です。
満足はあなたを通して生きる人生です。
喜びはあなたを通して生きる人生です。
満足と強さは
あなたを通して生きる人生です。
彼は恐れるなと言います。
恐れることはありません。
愛し、感じ、人生に導かれましょう。
あなたを通して人生を生きてください。
ロジャー・キーズ著