慈悲の瞑想(Loving- kindness meditation)#1

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自分自身を包む

 MBSR(マインドフルネスストレス低減法)の終日プログラムの中で「慈悲の瞑想」を体験される方が多いと思います。そのパワーの大きさと同時に困難さに衝撃を受けられる方もおられるかもしれません。私もその一人でした。

 「慈悲の瞑想」のフレーズは、とてもシンプルです。最初に自分自身が誰かに大切にされた時に感じた暖かく、安心し、リラックスした感じを思い出し、その感覚で自分をやさしく包んでみます。

 そんな経験ないなあと感じる方もおられるかもしれません。
 暖かい感覚を与えてくれた対象は、人だけではなく場所や私たちを癒してくれるペットでもかまいません。
 できれば、現在生きている人や動物などを選んでみます。亡くなった方やペットであれば、「もう少し私が○○していれば…、」等、後悔や自分に対する批判が起こりやすいからです。
  もちろん、今日は、自分は行わないという選択ももちろんできます。

 まずは、私たち自身が十分にその暖かさや安心感を感じ、リラックスしてみます。そして、どのような身体感覚、思い考え、感情が感じられるか探索していきます。顔や体が暖かく感じる人もいれば、涙が出てくる人もいますし、嬉しかった、あんな経験は今までになかった、ありがたかった、人生で何度も感じることではないなあ等の思いや考えが浮かんでくるかもしれません。
 何も感じない人もおられるかもしれません。人によって様々です。

 次にできるようであれば、暖かい感じを与えてくれた対象に暖かい気持ちを広げていきます。
 フレーズはシンプルです。

   ○○が、安全でありますように

   ○○が、幸せでありますように

   ○○が、出来るだけ健康でありますように

   ○○が、心安らかでいられますように

 そして、少しずつ私たちの暖かい気持ちを送る対象を私たちの周りに広げていくのです。自分に近しい人、自分の生活圏にいる人たち、自分の苦手な人、嫌だと感じる人、世界中の人たち、そして生きとし生けるものへ…。

 自分にとって、「苦手な人、嫌だなと感じる人」にも?

 私は、この段階で心が強烈に拒否しました。「ええ!?なんで嫌な人が安全で幸せになるように祈らないといけないの?私にあんなことした人に?絶対無理!!」と感じました。

人間だもの…

 MBSRでは、「実験室の科学者になったつもりで…」「好奇心を持って」、「もしよかったら」等と困難さにチャレンジすることもすすめられます。

 私の場合は、その軽やかさが自分を観察するスペースを少しずつ広げてくれていたようなので、「限界は超えない」と自分自身を守りながら、少し慈悲の瞑想を家でも続けてみることにしました。
 「嫌な人」に「暖かい心なんて送りたくない!」という私の断固として拒絶する心に気づき、認めつつ、それはそれとして優しくそっとしておきました。

 MBSRも終了し、半年が経ちました。慈悲の瞑想は続けていましたが、「嫌いな人」の部分はスキップしていました。 
 ところがある日、ふと「今日は、嫌な人にも送ってみようかな。」と思い、行ってみると、その日は何かすっと抵抗なくおこなうことができ、自分でも驚きました。

 そして、その瞬間、少し心が軽くなり、何かがほんの少し、溶け出した感じがしました。

 自分でもよく分かりませんでしたし、この心の変化は私にとって、何か劇的で感動的な変化というものでもありませんでした。
 けれどもその日を境にして、それまでとはあきらかに異なる感覚や思いや考え、身体感覚に変化していきました。
 その後もできる日もあれば、できない、したくない日もありましたが、「人間だもの、仕方ないわ。」という考えが浮かんできました。

 「半年もやっていてその程度?」と思われるかもしれませんし、「半年ぐらいで、人を許すなんてできる?」とも思われるかもしれません。ジョンカバットジン博士の「マインドフルネス低減法」の原題は「Full Catastrophe Living」です。Catastropheとは、「カタストロフィ、大惨事、破局、災禍、災い…」など人の人生を打ち砕くような出来事、それで満ちている私たちの人生という意味です。
 その原因は、「人」の場合もあります。そのような対象にすぐに「暖かい気持ち」なんて送れるはずがありません。


 人間だもの…、神様、仏様じゃない…。

 私自身が、「いつまでも許せない人がいる。」ということを認めて暖かい気持ちで包んであげていると、少しずつ自分に対して「かわいそうに…。私、本当に深く傷ついたんだ…。つらかったね。よく今まで生きてきね。えらかったやん。」と思い、涙があふれてきました。
 そして、自分に対して自然に「暖かい心」を送ることができている自分に気が付きました。

 この暖かい心が「慈悲」というものなのでしょうか…。

 まずは、自分の傷つきや悲しみがある事に気づき、それを無視したり、遠ざけたり、批判したりするのではなく認めてあげて、「暖かい心」で包んであげることが自分自身を解き放つ一歩かもしれません。

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