白内障の手術

MBSR(マインドフルネスストレス低減法)では、ふだんは忘れられがちな身体を意識しるプラクティスが取り入れられており、その効果は私たちが出会う様々なストレッサーにマインドフルネスを用いた対処法を効果的に提供する可能性がある
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目が動いてしまった…!

 白内障手術の体験を周りの人から聞いた方は多いと思います。それくらい一般的に行われ、安全性の高い手術ですが、いざ自分が受けるとなると、

 「手術中、瞬きしないとか、目を動かさないなんて絶対に無理!」

 「意識があるままで目を手術するなんて、恐ろしい!」

と思われる方は多いのではないでしょうか?私もその一人です。医師からの説明をていねいに受けても、友人、知人から体験談を聞いても正直「怖いわ~!」とビビっていました。 

 特に親しい友人から「手術中、目が動いたとき医師から怒られたわ~!」という言葉が私の心に重たく(!!)のしかかっていました。

 目、動きますよね…。普通に考えて…。

 そして、私は手術中に目が動いてしまったと感じていました。

 私の執刀医の先生は、ステキな女医さんで、とても話しやすく、手術中の様子について聞いてみました。


 「あまりに目に映るライトがグルグルと回ったので、目が動いてしまい、先生の「このあたり、ボッーと見ておいてくださいね。」とおっしゃっていたのにできませんでした。手術しにくかったのではないですか?」と聞いてみました。すると彼女は笑顔で、「いいえ、動いていませんでしたよ。ちゃんと一点を見ておられました。けっこう動いてしまう人もいるんですがね…。」と答えてくれました。

 「えっ?動いていたはずなんだけど…。」私はとても意外でした。

 「目は動いていなかったんだ…。」

 どんなことが私の中で起こっていたのだろうか?

不安や恐怖に曝された時…

 私たちが様々な体験を構成している要素として、「MBSRでは、⑴身体感覚や感触、⑵感情や気持ち、⑶思いや考えを「意識の三角形」と呼んでいます。マインドフルネスのプラクティスはそれぞれを明晰に意識することを繰り返し、一瞬立ち止まり、ストレッサーに上手に対応するためのツールとして活用することができます。」「マインドフルな大学生」エリック・ラウクス著 伊藤靖・渋沢田鶴子翻訳・編集 2024年、pp.40~41より抜粋)とブラウン大学マインドフルネスセンター所長のエリック・クラウスさんは「マインドフルな大学生」という著書の中で述べておられます。 

 私は手術前、とても緊張して、ビビっていたのですが、反面「こんな機会は2度しかない!どんなことが起こるか、好奇心を持って体験してみよう!」とも感じていました。
 特に点眼だけの麻酔は不安で「点眼麻酔だけで効くのかしら?」と思っていましたが、「まあ、みんな大丈夫なんだから。」と自分に言い聞かせ、手術室へ入る直前まで、不安や恐怖に巻き込まれないように、自分の意識を足の裏の感覚や呼吸に向けていました。

 手術室に入ると、粛々と手術前の消毒や確認が行われ、目の周りにテープがペタペタと張られます。

 手術は進み、レンズを入れる時だと思うのですが、医師の指示にもかかわらず、見ていたライトがグルグル回り、目もそれに連れて動いたように感じ、「あああ~!どうしよう、動いてしまった!手術失敗する!怖い!」と一瞬、感じた自分がいました。

 以下は、その後に私が経験したことです。時間にしたら3分くらいのことでしょうか。

 「呼吸に意識を向けて!落ち着いて!」

 医師:「大体ライトのあたり見ていてください。」

 「身体の感覚を信じて!大体そのあたりを見ていることなんて、今まで経験したことなんだから、できるよ。」と呼び掛けている私。

 「呼吸に意識を向けて、身体はしっかりと支えられているよ。(座面やいすに接しているふくらはぎを感じようとしている)そして、身体は座面や地球に支えられているよ。」

 すると、身体から「安心して~大丈夫だよ。」という感覚がわいてきて、目は(視点)は、動いておらず、手術は無事に終わりました。

自分の体験を分析してみる

 この流れの中で、私は、意図して、自分の「感情、思い・考え、身体感覚」の3つの体験領域に意識を集中させていたのだろうと考えられます。以下、Awarenessとは気が付くこと、気づきのことです。

 ①視覚情報の混乱→扁桃体(恐怖・不安のセンター)が自動反応しかけたが…

   ↓Awareness(自分が恐怖を感じていることに気づいた!自動反応しないように!)

 ②呼吸に意識を向けることにより、一瞬STOPし、スペースができ、前頭前野へ。

   ↓Awareness(身体の感覚を信じて!ボッーと一点を見ていることなんて出来る!)

 ③感覚としては、ライトが動くように見えた感覚に引きずられて目は動いているように感じていたが、実際は医師の言葉通りに視点は動かず、無事に手術は終わりました。

 この体験を私なりにマインドフルネスの文脈で分析すると以下のようになります。

 「今、この瞬間の体験を意識することで、マインドフルネスのプラクティスをしていた脳の各部位が「今起こっていることをあるがままに観察し、落ち着いて、過剰な恐怖を起動させないようにし、適切に判断し、身体感覚を統合し、その力を最適化して対応した。」ということでしょうか。

 私は、脳科学の専門家ではありませんが、今までの研究等を読むと、扁桃体が活性化したものの、過剰に反応することなく、島皮質、前帯状回皮質(ACC)、背外側前頭前野(dlPFC)が総合的に外眼筋に働き、目の動きを安定させたのではないかと仮定しています。

 また、脳科学や神経科学、内分泌学などの医学領域のみならず、心理学でも作用機序については「内受容感覚」として研究され、マインドフルネスを支える科学的なエビデンスが集積されています。

 白内障手術は、多くの人が受けている安全性の高い手術ですし、疑問や不安は手術を受ける医療施設で相談されるのが何より安心だと思います。私も医師に尋ねましたら、手術などの不安や恐怖に対応するには様々な方法があるとのことでした。そのためだけにマインドフルネスのプラクティスをすることはないと思います。

 けれどもすでにマインドフルネスのプラクティスをしている方がおられれば、人生で思わぬところでその恩恵を受けたり、自分を癒せることができるかもしれません。

 今、明るい夏空の下、私は美しい景色が再び色鮮やかにみることができています。

 私の手術を支えてくれた医師、家族、友人すべての人々と自然に感謝捧げます。

 

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