Dr. Willem Kuyken教授のご講演

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モノレールの斜め前に座っている人は…

  3月初旬にウィレムカイケン教授の特別公開講演会が大阪大学ユネスコチェアの主催で開催されました。

 私は、大阪大学へ行くために、モノレールに乗っていました。私の斜め前に大きなリュックとカバンを持った外国人の男性が座っていました。ジーンズ姿て、飄々とした感じで何か禅宗の雲水のような感じの人でした。

 You-Tubeやポスターで見たカイケン教授と少し似ているけれど、イメージが違うなあ、それに講演会ギリギリに演者の人がモノレールに乗っているはずないし…と思い返し、モノレールを降り、講演会場へ向かいました。

 会場には10分前に着いたのですが、なんとそこにさっきの外国人の男の人がいました!

 モノレールに乗っていたあの外国人の男性は、カイケン教授、その人でした!

 オックスフォード大学マインドフルネスセンターの元センター長であり、現在は同大学の臨床心理学教授です。

 専門領域は、再発性うつ病の治療と予防で、マインドフルネス認知療法(MBCT)の有効性を科学的に証明し、世界に普及させるための中心的な役割を果たしてきた方です。

 特に2016年の大規模なメタアナリシスは9つのランダム化比較試験(RCT)から、多くの患者さんのデータを分析し、うつ病の再発を予防するうえで、抗うつ薬の継続服用と同等、あるいはそれ以上の効果があることを証明されました。

 「薬を飲み続けたくない」という患者さんにとって、マインドフルネスが科学的に裏付けられた代替選択肢(または併用選択肢)であることを決定づける研究でした。

 MBSRのオリエンテーションでは、三回以上の再発うつに関するマインドフルネスのプログラムであるMBCTは、カイケン教授のメタアナリシスが、その効果を実証していると伝えています。

 まさかその雲の上のような教授が、「行雲流水」のごとくモノレールで私の前に現れるとは…。

黒い犬の居る場所

 講義の中で、MBCTが脳と心にどのように作用するのかを面白い絵を用いて説明されたのが印象的でした。

 あるスライドで、黒い大きな犬がベッドに寝ている人の胸に乗っている絵と、ソファに座っている人の後ろの小さな窓の外に黒い犬の一部分が少しだけ見えているイラストが並べられています。

 黒い犬とは、ウィンストン・チャーチルがうつ病を「黒い犬」と呼んだことに由来するそうですが、うつ症状やネガティブな感情を現わしているそうです。

この黒い犬の現わす、うつ症状(嫌なネガティブな感情など)を消そうとしなくてもいい、力の限り追い払わなくてもよい、そうすると余計にエネルギーを使いますます疲れ果ててしまうから。

 ただ隣に座る練習をすること、いやな気分をゼロにすることはできないが、「今は嫌な気分がそこにあるけれど、それは、自分そのものではない、と自分と感情の間にスペース(隙間、間)を作ることが大切だそうです。

 ああ、これは、MBSRでも静坐瞑想のプラクティスの時に、自分の様々な感情、特に不快な感情を観察する練習をしていくと、「自分はこう思っているんだなあ。こんなふうに感じているんだなあ。」と自分で自分の感情を観察することができるようになってきます。

 すると自分とぴったりとくっついて一体となっていた自分と不快な感情との間にスペースができる。

 すると客観的に自分の不快な感情を観察することができるようになり、そのスペースの中でマインドフルにどのような対処法を取ることが、自分にとって良いのだろうかと選択することができます。

 これは脱中心化(Decentering)とも言えます。
 脳内の特定のネットワーク(デフォルトモードネットワーク)などが変化し、「感情に対する反応の仕方」が変わり、脳内に新たなネットワークができる可能性を示しています。(Van der Velden et al., 2023/24等)

光の中に心地よくいることを学ぶスキル

 カイケン教授の話は続きます。

 レジュメの中に、元患者さんの笑顔の写真がありました。

 その方は、多くの苦闘と治療の結果、MBCTと出会い、現在は元気になっており、周囲の人間関係も良好になっているのだそうです。

 彼は、「もっと人生の早い段階でマインドフルネスのプラクティスやプログラム(MBCT等)を知っていれば、このようなつらい経験はしないでもよかったのに…。」と語ったそうです。

 その言葉が、カイケン教授の再発うつの研究の背中を大きく押していったようです。この方のことを語るカイケン教授の目は、研究者の目ではなく、長年の大切な友人を思いやる優しい目になっていました。

 次にマインドフルネスの4つの要素の大切さを話されました。 

 「意図=Intention 」、「注意を向けること=Attention」そして、どのような「態度=Attitude」で向き合えば、その結果、どのような「気づきを伴った行動=Action」が生み出されるか…。

 そして、今回強調されたのは、Attitude(態度)でした。
 「どのような心の持ち方で、自分の意識に向き合うのか」です。

 紹介されたワークの「右手と左手のワーク」は示唆にとむものでした。

 困難なものに立ち向かう時に「親友のように」「親切な」「暖かい」態度で向き合えば、その結果として起こる「Action」が全く異なっており、希望を見出すようなものになるというものでした。

 これは、カイケン教授の研究と深い仏教的智慧が結びついたワークだったと感銘を受けました。

 ついつい私たちは、優しい、そして親切な態度で自分自身に接することに対して、そんなことは何か自分を甘やかしているようにも感じてしまいます。
 友達になら絶対に言わないような言葉で自分を責めることもあります。

 特に日本人は自分自身に対して批判的な厳しい言葉をかけがちです。その結果、本当は大切なはずの自分自身を損ねてしまうこともあります。

 優しく暖かい気持ちをを自分自身に向け、照らしてあげる、するとその光は固く縮こまって警戒感を露わにしている私たちの心にまるで太陽のように暖かい光を投げかけて、包んであげるような働きをします。

 そうするとどうなるでしょうか?

 「光の中に心地よくいることを学ぶスキル」

 コンパッションを自分自身に向けること、これは、うつ病だけではなく、人生を生きていれば、様々な破滅的な困難さに見舞われる私たちへのすばらしいセルフケア、そして人生を豊かにする智慧だと感じました。

 あとからお話を聞くと、名古屋での日本マインドフルネス学会でのご講演の後、金沢の鈴木大拙館に行かれ、その足で大阪に来てくださったそうです。

 今日もご研究の傍ら、「光の中に心地よくいることを学ぶスキル」を携えて世界中を回られておられることでしょう。

 ありがとうございました。

 

 

 

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