言いたいことが言えなかった時代の大切な声
冒頭に、このたびの熊本地震により被災された皆様、また不安な日々を過ごされている皆様へ、心よりお見舞いを申し上げます。
困難な渦中にある方々や子どもたちの心が少しでも守られ、孤立することなく地域や社会の温かい繋がりの中で包まれていきますよう、深くお祈り申し上げます。
2020年からの新型コロナウイルス世界的大流行(パンデミック)により、各国の移動制限や緊急事態宣言など社会経済活動が大きく停滞し、感染防止対策としてマスク着用や行動自粛、ワクチン接種が推進される一方、人々の生活様式や価値観に急激な変化をもたらしました。
2023年5月5日に世界保健機関(WHO)が「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」の宣言を解除したことで、国際的な節目(ひとつの終息の基準)を迎えたとされています。
人間は誰でも「喉元過ぎれば…」忘れる動物です。まして、社会全体が抱えた多くのつらい出来事や政治的・行政的な失敗をできるなら思い出したくない、回避したいと思う傾向があると言われてます。
感染者数など量的なデータや医学的な量的研究はなされていましたが、「何が社会や人々の意識をこれほど分断(極端化)させたのか」や「同調圧力や政策に対して人々がどう葛藤し、どんな声を抱えていたのか」といった、社会・心理的な側面を丁寧な質的調査(アンケートの記述やインタビューなど)で包括的に検証した研究は、世界的にも日本国内においても、不十分なのが実情です。
こうした人のこころの動きや分断をアンケートを取り、ていねいに検証・記録した取り組みが、今回友人がミネルヴァ書房から出版した「心理学から見るコロナ禍とひとのこころ」です。
分極化する人々の意識
友人たちのグループは、意識調査の自由記述の質的分析の結果をていねいに解説しています。
分析法として、データをして語らしむと言われているKJ法の原理(川喜多 2017)にのっとり、帰納的にデータをまとめると15のカテゴリー(島)が現れ、人々の意見の多様性を明らかになりました。
カテゴリーは、①過剰なコロナ対策への疑問 ②マスメディアへの不信感 ③人権侵害 ④利権の構造に対する批判⑤医療関係者に関する疑念 ⑥ワクチンの安全性の疑問視 ⑦コロナワクチン容認 ⑧マスク着用に対する抵抗 ⑨免疫力の重視 ⑩主体的で冷静な判断 ⑪同調圧力 ⑫諸外国との比較 ⑬ワクチン被害を知る ⑭アンケート自体への不信 ⑮未検証の主張
一人ひとりの状況が大きく影響を与えていることや、どのカテゴリーにもグラデーションがあることが述べられていますが、これほどまでのパンデミックは私たちにとって初めての体験であり、私たちが、あの時にどのような体験をしていたかがリアリティーを持って伝わってくる分析でした。
あの時の私
あの頃、私はスクールカウンセラーをしていました。感染にもおびえていた一人の人間でした。
学校へ行くと朝管理職の先生が教職員に伝えてた文科省からの伝達事項が、数時間後には変更になっている時もありました。混乱の極みでした。
そんな中、感染した人たち、医療従事者、社会インフラに携わっている人の感染に対して、回復した人々に対してまで不安のあまり、社会が分断し、お互いを監視・攻撃しやすくなっていたあの時。
私は心理士として、脅威に対して人間がとる生物学的な反応を整理しつつ、過剰な防衛反応(逃げる・戦う・フリーズ)に自動反応するのではなく、『今、自分の中に生じている思いや考え、感情や体の感覚に気づき(マインドフルネス)』、そして、社会の一員としてどのように対応するのか、自分がどんな社会で生きたいのか、『排除や攻撃する社会か、お互いに支え合うこと』をルームだよりで伝えていました。
同じ市町村で活動していた心理士の仲間たちは、最新の心理学の知見を共有してくれ、繋がりあいながら日々活動しました。一人職場でしたが、繋がりあっていることは大きな安心でした。
過去を知り(分析)、今を選び直す(実践)
この本は、コロナ禍で鋭く対立し、分極化していった人々の意識が、アンケートとKJ法による質的分析によって、心理学的に可視化されています。
個々の生の声をうやむやにせず、丁寧に分類し構造化していくプロセスそのものが、分断された社会への誠実な『応答』だと感じました。
その客観的な分析(知ること)があるからこそ、私たちは今この瞬間に立ち止まり、そしてこれから、どのような言葉や態度を選択していくべきかが見えてきます。
このように現状を冷静に知る(分析)から始まり、「社会や自分の状態に気づき(マインドフルネス)」、逃げるか攻撃するかフリーズするかの本能が操る自動操縦状態から脱却し、「互いを慈しむ態度を選ぶ(コンパッション)」を共有することが、もしかしたらこの世界を生きぬく智慧となるかもしれません。
「うやむやにされがちな記憶や社会現象を、貴重なデータとして残したと」いう意味で、世界的にも先駆けとなる非常に価値ある一石だと思います。
どうぞご興味を持たれた方は是非読んでみてくださいね。
また、ブログを最後まで読んでくださったみなさん、本当にありがとうございました。

